タクシー会社の再建をきっかけにベンチャー企業を設立!起業3年目にして、3社と計1.5億円の資本業務提携を結んだ徳島の若きベンチャー起業家に聞く

株式会社電脳交通
代表取締役社長 近藤 洋祐氏

株式会社電脳交通
代表取締役社長 近藤 洋祐氏

今、徳島で最も注目されるベンチャー起業家の近藤 洋祐氏。18歳の時に、メジャーリーガーを目指し、単身で渡米するなど異色の経験を持つ。祖父の経営する廃業寸前だった吉野川タクシー有限会社を27歳で承継。吉野川タクシー有限会社を、「会員制妊産婦送迎サービス」などの革新的なサービスの提供やITも活用しながら業績を回復させ、再建を果たす。そして、その道中で生まれたアイデァを詰め込んだ「クラウド型タクシー配車システム」を共同開発し、配車業務も代行するサービスを新しく設立した会社「株式会社電脳交通」より全国へ販売。JapanTaxi、NTTドコモ・ベンチャーズ、ブロードバンドタワーと資本業務提携を行い、タクシー業界に新たな風を吹き込んでいる。

近藤洋祐氏に、電脳交通のサービスを誕生させるまでのプロセス、彼自身の半生、そして徳島でのビジネスの可能性についてお聞きしました。

上:タクシー会社の再建をきっかけに、ベンチャー企業を設立
中:強いメンタルと挑戦のマインドを養った近藤洋祐氏の半生
下:自分を最も活かせるフィールドが徳島にあった

でご紹介します。

<下>自分を最も活かせるフィールドが徳島にあった

――初めての就職先はたった1カ月で退職。

帰国後、徳島のメーカーに入社。海外にも工場を持つグルーバル企業なので、英語ができれば役に立つだろうと思われたようでした。3カ月は現場での研修と言われ工場に配属、梱包からスタートしました。毎日毎日、製品を箱詰めしました。それが、思いの外楽しく、梱包を極めて最速の男になってやろうとしました。1カ月が経った頃に予定を前倒しで工場から本部に引き上げられることになり、周囲は「良かったね」と声をかけてくれましたが、辞めることにしました。自分の個性を活かして、ポテンシャルを発揮できるところで勝負したいと思うようになったからです。

そのころ、吉野川タクシーの経営者だった祖父が倒れたので介護をしていました。1年間、祖父を背負って病院へ送り、ドライバーとしてタクシーにも乗り出しました。随分後になってから知りましたが、徳島県は全国のタクシーマーケット最小のエリアで、その中でも吉野川タクシーは最下位でした。60歳以上のドライバーは愚痴を発する元気すらなくなって、危機に対して不感症になっていました。

メジャーリーグを目指すギラついた奴らに囲まれていた自分にとってカルチャーショックでした。それでも継ぐことを決めました。ロジックではなく、直観で自分の勝負する場所は、ここだと思ったのです。自分の個性とポテンシャルを発揮できる何かがあると感じました。
失うものがないという状況、ネガティブからのスタートが自分のポテンシャルを最も活かせるフィールドだと気付きました。ここを突き詰めればまた世界とつながれるという直感もありました。

スポーツだけでなく、PCやテクノロジーにも触れあった幼少期でした。
スポーツだけでなく、PCやテクノロジーにも触れあった幼少期でした。

―― 既存産業のノウハウを学び、ITで配置転換。

インターネットとの出会いは、小学校3年の時。学校にPCが導入されて以来触れるようになり、その後1日たりともPCに触れない日はなく、インターネットを通じて世界と最先端に触れていました。そのテクノロジーが当時はマイナーでしたが、現在の主流になったことは自分にとって幸運でした。吉野川タクシーでもITを使って改善しようと思ったのは自然な流れでした。

夢を壊すようですが、電脳交通は「イノベーション」とか「クリエイティブ」ではありません。タクシー産業に元々あったノウハウを、ITを使って配置転換しただけです。派手さはありませんが、だからこそ骨太な事業だと思います。100年以上社会に必要とされ続けてきたタクシー産業を母体にしていること、また自分自身でタクシーを走らせて必要としてくれている人がいることを知っているから、事業そのものの価値を信じています。タクシー以外にも配置転換を必要としている重要な産業は、地方にはまだまだたくさんあります。地方は、宝の山だと思っています。

東京にはビジネストレーニングのためによく行っています。IT系の勉強会で起業家やエンジニアとも交流を続けています。「ベンチャーするならやっぱり渋谷でしょ、なんで徳島なの?」と言われ続けましたが、その固定観念を覆したいという思いもありました。経済的に考えても働く場所を選ばないIT業界なら、固定費が安い地方のメリットは大きい。起業家ならだれもがメリットの大きさを理解できると思います。

デメリットは、事業展開がスピードダウンすることでした。しかし、高齢のお客様が多い業界ですので急激な進化は好ましくありません。スピードよりも着実な浸透と定着を重視する方向性とも合致しました。

―― 人との出会いで育つ徳島のビジネス。

徳島でビジネス展開する人にとっては「出会い」も魅力になるかもしれせん。電脳交通が順調に成長しているのも、素晴らしい出会いがありその方たちの影響を受けているからです。一人挙げるとすると、役員にもなってもらっている「村口和孝」さん。徳島県海陽町出身で300億円の収益を出したと言われる伝説の投資家です。「ふるさと納税」制度の提唱者としても知られていて、個人VCを初めて作ってDeNAに初めて出資した人でもあります。
教えは、「少ない資源で大きな効果」。村口さんの出身地の海陽町は海がきれいでウミガメが産卵に来たり、サーフィンで有名な街ですが、仕事や経済という意味では資源に乏しいエリアです。その環境で幼少期を過ごし資源が限られた環境で身に着けた知恵だと思います。ネガティブからスタートした電脳交通にはピッタリで、視野を広げると多くの地方に当てはまる教えだと思います。

村口さんとも始めてお会いしたのは28歳のとき。「タクシー業界を変えたい」と夢を語ると、村口さんはなぜか「絶対お前に投資する」と言ってくれて、それ以来のお付き合いです。まだ夢しかなかった若者が、大物投資家と出会い想いをぶつける機会をもらえたのは、地縁だけではなく徳島は目立ちやすい場所ということもあるかもしれません。少し尖ると良くも悪くも目立ってしまいます。それをうまく利用することができれば良い縁を手繰り寄せることができるチャンスが生まれます。

すでに社会に根付いている産業を活性化するビジネスモデルだから、社会へのインパクトも大きい。
すでに社会に根付いている産業を活性化するビジネスモデルだから、社会へのインパクトも大きい。

 
交通インフラという実の伴ったベンチャー企業だから、プロダクトが社会にインパクトを与え、社会の中で全方位的に巻き込んで前に進んでいけます。自分やプロダクトが社会の一部になることに大きな喜びを感じています。

徳島にチャンスがないと思うのではなく、徳島だからこそチャンスに巡り合えると考えることができる人であれば、ITをツールとし、新たなサービスを生み出す、最善の地域の一つが徳島なのかもしれない、と感じさせられるインタビューとなりました。

※追記
2018年12月に株式会社JR西日本イノベーションズと資本提携を行いました。
電脳交通は、IT技術による次世代の地域交通サービス充実化へ向け、さらに事業を加速しています。
<報道発表>
https://www.westjr.co.jp/press/article/2018/12/page_13586.html
(2019年1月11日)

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