40代・50代は移住の適齢期。培った能力や経験が、活かせるかもしれない。

東京生まれ、東京育ち。東京のデザイン事務所代表の西村氏と徳島県神山町との出会いは2005年にさかのぼる。神山のNPOグリーンバレーから「ウェブサイトをつくってもらえないか」と、徳島県神山町の今を伝えるサイト「イン神山」の制作をすることに。2014年に、神山町に拠点を構える。

神山町に移住した経緯や移住者だからこそ見える神山の魅力、移住の醍醐味、そして過疎地域が抱える課題などを伺いました。

有限会社リビングワールド Lab:代表 西村 佳哲 氏

武蔵野美術大学卒。大手建設会社を経て、つくる・書く・教える、大きく3つの領域に取り組む。開発的な仕事の相談を受けることが多く、30代のものづくり、40代の場づくりに加え、50代以降は、建築計画やまちづくりや組織開発などの仕事が中心的。
2014年から東京と徳島県神山町での二拠点居住を始め、同町の「まちを将来世代につなぐプロジェクト」に一般社団法人 神山つなぐ公社(2016~)理事として参画。

著書は『自分の仕事をつくる』(晶文社/ちくま文庫)他。
最新刊は『ひとの居場所をつくる』(ちくま文庫)。

地方への移住先を選ぶ中で、一番大切にしたこと

元々、「東京の他に暮らしの拠点が欲しい」と考えていました。
その後、東日本大震災を経て、本格的に場所を探すようになりました。「徳島の神山に移ってみよう」と最初から決めていたわけではありません。
しかし、その他の地域も移住の候補とする中で、神山が一番良いだろうという結論に至りました。

なぜなら、一番大切なことは「人とのつながり」や「相性」だと考えていたからです。
神山では、仕事を通した良い人間関係があったので、安心して移り住むことができました。
現在、ここに来て6年目になりますが、15年前に会った人たち以外の地元の方々との交流も増えました。

都会的な魅力も地方の魅力も兼ね備えている

神山町には、若い人たちが始めた美味しい店がいくつかあります。
古民家を改装したピザ屋さん、美味しいパン屋さん、地元の食材を使った食堂も新しくできています。
田舎にいながら都会的な暮らしも多少味わえるので贅沢ですよね。

山林があり、川が流れていて、そこで遊ぶ人の姿もが見えるのも良いですね。
家と家が離れていて基本的な距離感が保たれているのもストレスが低くい。自分には暮らしやすい場所です。

中山間地には40代 50代が活躍しやすい状況がある

地方に移り住む年代として、40代や50代は、都会で働く中で身につけた力を発揮できる適齢期だと思います。
地方には様々なチャンスがあると思います。

大手IT企業から神山に移住してカフェ経営を始めた女性も40代ですし、まちを元気にするNPOの事務局長は50歳前後。経験を十分に積んでいるからこそ、地方で自分なりの生き方や働き方の実現がスピーディなのだと思います。

地方は基本的に人材が不足しています。役場の中を見ていても、40代中盤~50代の層が薄い。
この世代は、「田舎になんかにいちゃいけない」と言われて都会に出て行った世代の子ども世代なんでしょうね。

まちづくりにかかわる機会も多いと思う。東京で行政がやることに関わるのは難しいし、本当に関わろうとするなら、議員になるとか、本格的なNPOを立ち上げるといった形になる。ですが、人口規模の少ない中山間地の小さい自治体では、むしろ活躍を求められると思います。

東京と神山の2拠点居住から、神山へウェイトを置く働き方へ。

コロナ以前は、神山6:東京3:出張1くらいの滞在比率でした。今はほぼ神山に滞在しています。オンラインの打ち合わせも当たり前になりましたし、神山で仕事をする上で不便はほとんどありません。
コロナ禍でもあまりストレスのない変わりなく日常生活を送っています。

ただ、交通費が占める出費は大きいですし、もう少しどうにかできないかなと思います。交通費の負担が軽減されれば、長野・山梨・外房など首都圏のサテライトエリアと競い合えるのではないでしょうか。

地方への移住の課題とは。

移り住むときに大変だったのは、物件探しです。
土地や建物が、不動産物件として商品化されていないので、借りるのも買うのもむずかしい。
本当は土地を買って、建てたいと思っていたのですが、これが難航しました。

西日本全体が遅れ気味ですが、とくに中山間地で地籍調査が進んでいません。
土地の境界線を明確にするだけで、費用も日数もかかります。物件取得に向けたハードルが、一つひとつ高い。

『土地を買うのが難しい』
これは、神山だけでなく、山間地や田園部全体の問題ではないでしょうか。

僕の場合、最終的には家を借りて修繕しました。賃貸ですが、そこそこの修繕費を入れています。
自分のものでない、借りている家には、大きな投資がしづらいもどかしさがありますよね。

コロナ後の現在、NPOグリーンバレーにも移住やサテライトの問合せが届いているようですが、土地を探すのが難しいのが課題となっているようです。

地域に変な人や会社が入ってくるのは防がないといけないけど、暮らしや仕事の拠点を新たに構えることを容易にする条例や特区の検討ができないかなと思います。移住や企業の誘致にもつながるのではないでしょうか。

例えば、学校をはじめ公共施設など、人口が多い時代の建物を使い切れていないですよね。
そういった施設を県などが一括で借り受けて、県預かりで希望する企業に貸し出しなどするのは、人数の少ない市町村行政の負担も減らせるし、面白いかもしれません。

まちに新たな「生態系」を築いていく

2年前、オーストリアのリンツに行ったのですが、とても興味深いことがありました。

大きな工場跡を、市が開発してつくったシェアオフィスに寄ったところ、そこの入居者の決め方がおもしろかった。
一般公募で受け付けるのではなくて、先に入っているオフィスのメンバーが話し合うんです。
「次にこういう業種の人が来ると、自分たちの仕事と掛け算が生まれるのでいい」といった感じで。

よい生態系として育ってゆくのを大事にしていました。
生態系が育ってゆくという観点では、神山町も近いかもしれません。

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