サイファー・テック株式会社

徳島サテライトオフィスの先駆け。多数のメディアにも取り上げられた柔軟なワークスタイル「半X半IT」の変化と今。

徳島県の南部に位置する、サーフィンの名所としても知られる美波町。
人口の減り続ける過疎地域でもあるこの町に、東京から本社を移転したことで注目された「サイファー・テック株式会社」。2003年、株式会社ジャストシステム出身の吉田 基晴 氏らによって設立された、セキュリティ技術を扱うIT企業です。

吉田 基晴 氏

株式会社ジャストシステムほか、いくつかのITベンチャー勤務を経験した後、セキュリティ技術を開発するIT企業からスピンアウトする形で、サイファー・テック株式会社を設立。

2012年には生まれ故郷である徳島県海部郡美波町にサテライトオフィスを開設。翌年本社を東京から美波町に移転しました。
その後も、地域活性化のためのコンサルティングを行う「株式会社あわえ」を創業するなど、徳島県南部の地方創生を牽引するひとりです。

吉田 基晴 氏

拠点開設は2012年。都心部から地方に本社を移すことはもちろん、まだサテライトオフィスを持つ企業すら珍しく、働き方改革という言葉もなかった時代。
自然豊かな美波町で、生活の半分を趣味や家族といった自分のため(X)に、半分を仕事(IT)に使おうという「半X半IT」。同社の掲げるこのワークスタイルは、ユニークな取り組みとして多くのメディアに取り上げられ、本社移転にまつわるエピソードは映画化までされました。

その後、サテライトオフィスの設置は多くの企業に注目され、田舎への移住ブームも起こるなど、地方に目を向ける大きな流れとなり、最近では2020年にパソナグループが本社機能の一部を淡路島に移転し話題になるなど、地方拠点は以前よりもずっと当たり前になりました。

そんな今、美波町への拠点設置から10年を迎えるサイファー・テックはどのようになっているのか。徳島市内のオフィスに勤務している、CTO 野中 俊宏 氏にお伺いしました。

徳島にいながら首都圏の大手企業と取引。美波Labも問題なく稼働しています。

現在は東京、徳島市、美波町にそれぞれ拠点があり、経営陣は東京と徳島を行き来しています。
社員数は20名程度。6~7割がエンジニアという構成になっていて、開発の中心は徳島市と美波町ですが、東京のエンジニアもリモートで参画しています。

主にセキュリティソフトの開発や保守、アプリケーションの脆弱性診断などを行っており、個人情報や知的財産への保護に対する重要性が増していくにしたがって、需要は確実に高まっています。最近では誰もが知るような大手企業からの受注も増え、事業の安定性も向上しています。それと同時にエンジニアの確保は難しくなってきましたが、これはIT業界全体に言えることかもしれません。

今では従業員のために就労環境を整えているIT企業も多くなりました。働きやすさは採用や定着を成功させる上での重要なポイントです。実際に、美波町のサテライトオフィス設置の際にはたった1年で社員が倍増するなど、採用の面では大きな効果がありました。
海と山に囲まれ、勤務時間外にはサーフィンやキャンプが楽しめる場所がすぐそこにあるという、ニッチな利点をアピールした採用活動を行ったのですが、当時入社した社員の一人はまさにここに惹かれたということで、関東から移住してきて出社前や昼休みにも趣味のサーフィンを楽しんでいましたね。

その彼も含め、美波町のLabには現在5名ほどの個性豊かなエンジニアが在籍しています。
話題になった地方拠点もいつの間にか撤退しているのでは、と思われるかもしれませんが、10年後の今も安定的に稼働しています。

半X半ITのワークスタイルも健在。柔軟な環境には自信があります。

当時から提唱している「半X半IT」のワークスタイルに基づき、環境の整備はずっと続けています。カスタマイズを繰り返して、少しずつバージョンアップしているような感じですね。
都心部のIT企業のような、おしゃれなオフィスやバーカウンターなどは無いですが、よりそれぞれの生活に合った形に落ち着いてきたと思います。

自由に勤務地を選べるフリーオフィス制度もそのひとつで、夏の間だけマリンスポーツをするために美波町で過ごしたり、今日は徳島市で明日は美波町、といった働き方もできます。
また、今秋にフレックスタイム制を導入予定ですが、現在でも勤務時間は相談の上変更することも可能ですし、条件を満たせばリモート勤務も自由です。雨が降ると住んでいる古民家が雨漏りするので、とリモート勤務に切り替えていた社員もいました。

個人の事情で「ご迷惑をかけてすみません」と心理的な負担を感じたり、やりたいことを諦めたりしなくても良いよう、場所や時間などを過剰に縛ることはしていません。社会情勢や社員の生活も変化していくものですから。
うちの働きやすさには、いい意味で生活感があるのかもしれないと思っています。

先ほどお話した、サーフィンを趣味にしている社員はその後、結婚して3人のパパになりました。
今はサーフィンに充てていた時間を子育てや地域活動などに使っています。地域のお祭りで重要な役目を担ったりすることもあって、もうすっかり地元の人間です。

他にも美波Labには狩猟を趣味にしている女性もいて、猪や鹿肉のおすそ分けがしょっちゅうあります。新鮮で処理も上手なので全然臭くないんですよ。
以前には会社のイベントとして、地域の方と一緒に田植えや稲刈りをやっていたので、その時に猪の丸焼きを振る舞ったりして、普通なら絶対にできない体験をさせてもらいました。

美波町だけではなく、徳島市のオフィスにも農業をしている人がいて、彼女からは大量のトマトを頂きます。甘くて美味しいので嬉しいですが、みんな会社を消費先に使っているんですよ(笑)。
農業をしている人は、稲刈りの時期など農繁期に合わせて長期休暇を取ることが多いですね。

特別な趣味はなくても、家族や子育てのために時間を使いたい、という方にもうちの働き方は好評です。もちろん、自分がのんびりするためでもいい。
私自身も地元のお祭りで担当している獅子舞の練習のために、秋は早上がりをしています。

仕事をきちんとすれば残りの時間を好きなように使える、というのはごく当たり前のことですが、そのために会社からの「縛り」を少なくすることは大切だと考えています。経営陣だけではなく、全社員がそのマインドを共有できると、制度は変化していっても安定感は失われません。

自由に生きるためにはスキルアップも必要。「田舎でのんびり」は間違いです。

私はサイファー・テックの立ち上げメンバーのひとりなので、会社の変遷とともにIT業界の進化も見てきました。常に新しい技術が生まれるこの業界で一定の業績を維持するには、社員のスキルアップが必要不可欠です。
柔軟なワークスタイルが象徴的に語られますが、その働き方が可能なのは高いレベルで仕事をしてくれるエンジニアたちがいるからです。

副業も可能なため、研鑽を兼ねてITエンジニア資格の取得支援をしたり、小学校でプログラミングを教える手伝いをしたり、サービスのバグを見つけると企業から報奨金がもらえる「BugBounty」というプログラムに登録したりしている人もいます。
時間にゆとりがあることで、会社が無理に働きかけなくても自発的にスキルアップにも取り組んでいるような印象ですね。
「今やっているプロジェクトだとこういう資格がいいよ」と勧めることもありますが、大抵は自分で考えて必要な分野の勉強をしていることが多いです。

都心部でいると、「仕事」「趣味」「スキルアップ」「生活」などの拠点が全て離れていて、その移動に時間を取られたり、すべてを充実させようとするとかなりのバイタリティが必要になると思います。
その点では、うちはすべてが重なり合うように繋がっていて、結果として人生が豊かになっていくような循環になっている気がします。
とはいえ、やりたいことが全てできる環境になると、とても忙しい。田舎は忙しいです。のんびりしている暇はありません。サテライトオフィスの設置から本社移転を経て、10年はあっという間でした。

先陣を切ったからこその経験値もありますし、地方でもITの仕事を続けていけるというひとつの事例になれているのではと思います。今後もその時にあった変化をして、その変化を楽しみながらやっていければいいなと思っています。

会社概要

設立
2003年2月
資本金
2,000万円
売上
非公開
従業員数
20名(2022年9月1日現在)
事業概要
情報セキュリティ事業
住所
徳島県海部郡美波町恵比須浜字田井266番地
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