若き研究者と共に、革新の種を蒔き続ける徳島大学 獅子掘教授。次世代のIT技術について、そして企業との共同研究について聞く(後編)
前編では、徳島大学 獅子掘教授より、研究分野について、また現在取り組まれている研究であるAR(拡張現実)の取り組みを詳しく教えて頂きました。また、企業との共同研究で行った「かな漢字変換」についても教えて頂きました。
後編では、共同研究について、また徳島大学の学生がどのようなことを大学で学んでいるのか、ということを教えて頂きました。
―― 共同開発を行う上で、大学と企業の意識にどんな違いがあるのでしょうか?
企業としては、共同開発した技術は自社内で保有したいと考えるのが自然。一方で、大学で研究している内容は、一社だけでなく広く使ってもらいたいと願うのが研究者のスタンスです。企業との契約の際に、その点は確認しあっています。そのようなスタンスの違いはありますが、共同研究は大学と企業、学生それぞれに大きなメリットを生み出すと経験上考えています。
Mac(Macintosh)に搭載されている変換ソフト「ことえり」の共同研究にも3~4年ほど携わらせていただきましたが、そこで「目から鱗が落ちる」といいますか、彼らのモノづくりの考え方に驚かされました。Apple Japanの担当者から相談されたことは「同じエンジンで韓国語も中国語にも対応できないか?」でした。複数の言語をまたぐルールを発見するという今までにない発想に感銘を受けました。また、設計書についても非常に緻密で詳細なもので、完成度の高い研究を行うためのよいモデルケースを知ることができました。
―― 共同研究は、学生にとっても良い影響があるのでしょうか?
そうですね、私自身も学生の頃の共同研究が非常に良い経験となったと思います。
別の企業ですが、スペルチェックを行う「文書校正支援システム」の開発にも取り組んだことがあります。当時、私は学生アルバイトとしてサポートにあたっていました。テーマは、「表記の揺れ」の解消です。
カタカナ変換で「バイオリン」と「ヴァイオリン」、「コンピュータ」と「コンピューター」、漢字の送りでは「売り上げ」と「売上」などを表記の揺れと呼んでいました。その表記を統一する技術の研究です。今は、wordにもその機能が標準装備されています。仮名遣いが違っていたり、英語でもスペルが違っていると、その単語を波線で示して教えてくれ、非常に便利だと思います。
今やオーソドックスな機能ですが、研究している当時は、この技術がいつか日本に恩恵をもたらすものだとは想像もしていませんでした。実用化されれば、どれだけ人の役に立つのかまで考えられる余裕はありませんでしたね。共同研究先の社員さんが何人か研究室に常駐されていて「獅々堀くん、どこまで進んだ?」って。ただ時間に追われるばかりで(笑)。それがいいプレッシャーになったと思いますし、今の学生を見ていても企業との共同研究はとても良い刺激になっているようです。
製品化についてはノウハウの蓄積のない大学にとって、それを補完してくれる企業との共同研究は大きな成果を生み出す可能性を秘めています。まだ世の中にない真理を発見する、すなわち研究を一緒に行ってくれる企業とはコンタクトをとっていきたいと思っています。
―― 徳島大学の学生はどのようなタイプの方が多いのでしょうか?
徳島大学の学生は、あるシンクタンクの企業アンケートによると、魅力がさまざまある中で、特に「コミュニケーション力」についての評価が高いという記事を読んだことがあります。
徳島大学工学部では、「創成型科目」を取り入れており、学年ごとにテーマを持っています。「人付き合いが苦手だからコンピュータが好き」という学生もいますが、創成学習によって変わる学生は少なくありません。
―― 創生学習とはどのような勉強をするのですか。
創生型科目は、言われたことをやるという学習ではなく、学生自身が考えて主体性を持って取り組みます。
例えば、2年生では、ゲームを制作します。1年の時に学んだプログラム言語を使い、ゲームを自分で考えて企画し、最終的には一人で遊べるゲームを完成させます。
後期はさらにそれを発展させて、ネットワーク技術を使い対戦型のゲームを制作します。この時は3~4人のチームを組みます。役割分担や連携が必須になりますので、単なる技術だけでなく社会に出たときに必要とされるヒューマンスキルを磨いてもらいます。最後は、プレゼンしコンテストします。他のチームのゲームで遊んでみて、最も面白かった作品に投票し優勝作品を決定します。
3年生では、ハードウェアを意識したモノづくりをテーマとした研究を行います。ハードウェアを意識することで、よりソフトウェアを深く理解できるようになります。最近では完全自律型のロボットを製作しています。セルフコントロールなのでリモコンもありません。これもチームで製作し最後にはコンテストを行います。
4年生は卒業研究を行いますが、実験ではなくより実用的で社会のニーズに沿ったシステムを研究します。指導教員と打合せして社会に役立つものづくりをテーマに研究をします。学部在学中に学会で発表する優秀な学生もいます。
大学院に進むと、研究者らしくなってきます。問題点の指摘やその解決方法の検証まで自発的に行えるようになります。徳島大学大学院の掲げる理念は「自主と自律」ですので正にそのような学生に育ってくれます。1~2年で見違えるように成長する学生も珍しくありません。指導者としての喜びもありますし、社会に出ても即戦力として貢献できるでしょうから頼もしくもあります。
こうした教育方針の成果として、企業の担当者のみなさんから、徳島大学の学生たちのコミュニケーション力が高く評価される結果につながったのでしょう。
それでは、取材に協力して下さった「獅々堀研究室ゼミ」の皆さんと研究内容をご紹介します。
(学年は取材時2018年1月時点)
獅々堀研究室ゼミの取材では、大学院生の発表も見学させて頂きました。音楽やテレビなど楽しそうな研究対象ですが、文系の取材班には難解でした・・。情報分野の勉強をされている方であれば、理解できるかもしれませんね。それでは、研究内容を紹介させて頂きますので、理解できるかチャレンジください!
所属・学年:大学院先端技術科学教育部システム創生工学専攻知能情報システム工学コース・1年
氏名:船坂 国之
研究テーマ:HMMに基づくドラムフィルインの自動生成手法に関する研究
ドラム楽譜の自動生成手法に関する研究です。具体的には,他の楽器(例えば、ベースなど)の演奏情報とドラム楽譜との関連性から学習モデルを構築し、学習モデルを用いて自動でドラム楽譜(特にドラムフィルイン部分)を自動作曲します。
HMMとは隠れマルコフモデル(Hidden Markov Model)と呼ばれる時系列データを対象にした学習モデルの一つで、学習モデルに用いています。
所属・学年:大学院先端技術科学教育部システム創生工学専攻知能情報システム工学コース・1年
氏名:森 祥悟
研究テーマ:音域に着目したサビ区間検出手法に関する研究
楽曲のサビ区間を自動検出する手法に関する研究です。特に、音域の類似性に着目してサビの検出を行っています。
所属・学年:大学院先端技術科学教育部システム創生工学専攻知能情報システム工学コース・2年
氏名:中西 雅哉
研究テーマ:登場人物の画像的特徴量を考慮した映像コンテンツのチャプタリング手法に関する研究
映像シーンから人物の上半身画像を自動抽出し、上半身画像の類似性に着目して、同一人物が写っている映像シーンをまとめ上げ、映像のチャプターを構成する手法を研究してます。
所属・学年:大学院先端技術科学教育部システム創生工学専攻知能情報システム工学コース・1年
氏名:髙松 翔馬
研究テーマ:顔画像の類似性を考慮した映像コンテンツのチャプタリング手法に関する研究
映像シーンから人物の顔画像を自動抽出し,顔画像の類似性に着目して、同一人物が写っている映像シーンをまとめ上げ、映像のチャプターを構成する手法を研究してます。
特に従来の技術では,同一人物の顔画像でも正面顔と横顔では類似性が低く、同一人物と認識することが困難だったのですが、本研究では映像シーン内の動きに着目して,同一人物の様々な向きの顔画像を自動収集する技術を研究しています。
所属・学年:大学院先端技術科学教育部システム創生工学専攻知能情報システム工学コース・2年
氏名:上野 総司郎
研究テーマ:Self-distance matrixに基づく楽曲構造解析に関する研究
楽曲内のイントロ、Aメロ、Bメロ、サビ、といった楽曲構造を解析する技術を研究しています。楽曲内の細かいパーツ間の類似性をSelf-distance matrixと呼ばれる可視化ツールに通すことで、楽曲構造を解析するアプローチを研究しています。
所属・学年:大学院先端技術科学教育部システム創生工学専攻知能情報システム工学コース・2年
氏名:向原 啓悟
研究テーマ:単一楽曲からマッシュアップ楽曲を検索する手法に関する研究
徳島大学には、企業との共同研究に積極的な獅々堀教授と、研究に真摯に向き合い、コミュニケーション能力の高い徳島大学生、院生が在籍しています。
また、徳島大学より新たな技術が共同研究され、日本へ、世界へ発信されることを期待しています。