徳島にある「人工知能(AI)・自然言語処理」の研究開発拠点が、徳島のITの未来を照らす(後編)
前編では、株式会社ワークスアプリケーションズの研究開発拠点、ワークス徳島人工知能NLP研究所 所長 内田 佳孝 氏より、同社が徳島へ開発拠点を設けた理由、また同社の開発理念や製品について詳しくお聞きしました。
後編では、「HUE」が実現する世界を詳しく教えていただき、また、この徳島が人工知能の分野で躍進する可能性、徳島でIT分野がより活性化する可能性などもお聞きしました。
―― 「HUE」は、ユーザビリティを重視したコンセプトのもと、開発をされたということですが、ユーザビリティを重視するとはどういうことなんでしょうか?
複雑で分かりづらかった今までのERPシステムの画面とは異なり、いつも親しんでいるコンシューマー向けのアプリケーションのような画面で、どうやって操作するんだろう?と悩まずとも直感的に使えるような仕様となっています。
また、SNSのように自分のタイムラインを見ることができ、そこでチャットやメール、スケジュール、タスクリスト、業務上の通知など、あらゆる情報を確認することができます。情報が一元管理できるため、業務の抜け漏れを防ぐことが可能です。それだけでなく、テキストなどの入力の際に、自動補完やオートコンプリート※などを行うので、入力作業をする手間を大幅に省くことができます。
※オートコンプリートとは過去に入力した文字を記憶して、文字列の最初の文字を入力するだけで自動的に合致する候補を列挙してくれる機能。
―― 人工知能はどのような機能に使用されているのですか?
例えば、請求書のPDFデータを「HUE」の画面にドラッグ&ドロップします。すると、企業名、製品名、金額などを人工知能が読み取って記載された内容を分析し、自動的にシステムに入力が行われます。履歴書なども同様です。従来は、紙やデータで送られてきた内容を、手作業で入力するという業務が発生していましたが、「HUE」を導入することで、データ入力などの単純作業を大幅に削減できます。
ただし、100%間違いなくできるか、というとそうではありません。解析できないデータや、間違っているところは、人が補完する必要があります。そして、人が補完した内容に対して人工知能が機械学習を繰り返すことで、限りなく100%の精度に近づけることが出来ます。
―― 「HUE」の人工知能は、どのような進化を続けるのでしょうか。
来年(2018年)以降に向けて、チャットボット※による対話機能の実用化を進めています。
例えば、人事部門における年末調整の問い合わせ対応など、一定の時期に集中してしまうけれど、質問にパターンがあり、比較的回答が想定しやすい業務を支援する機能として活用する予定です。
頻繁に寄せられる質問はチャットボットが回答し、それでも解決できない質問だけを人事担当者へ繋ぐ。そうすることで、繁忙期の人事担当者の負担を大幅に減らすことができます。
※チャットボットとは、「チャット」と「ボット」を組み合わせた言葉で、人工知能を活用した「自動会話プログラム」のこと。「チャット」は、インターネットを利用したリアルタイムコミュニケーションで、「ボット」は、「ロボット」の略。
その他の業務の効率化も目指しています。先程ご説明した履歴書のデータ化は既に実現していますので、そのデータを集積し、人工知能に学習させることで、採用活動の効率化を進めることができます。例えば、その会社で活躍する人材の傾向を把握し、書類選考については、システムでスクリーニングをするといったこともできるようになります。
大手企業は新卒募集の時期となると、多いところで約一万人近くの応募があるため、書類選考の業務に忙殺されてしまします。しかし、書類選考や面接のスケジュール調整などの煩雑な業務を人工知能に任せることができれば、面接や企業の魅力付けなど、人でなければできない採用業務に注力することができます。
また、人事業務に限らず、各自のスケジュール調整なども人工知能が代わりに行うことができるようになると考えています。
―― 人工知能の導入によって、様々な業務が効率化されるのですね。それによって、私たちの働き方はどのように変わっていくのでしょうか。
人工知能を活用することで、単純作業はシステムが代替するようになり、より人でなければできない仕事に集中できる環境を作れるのではないかと思います。例えば、クリエイティブな仕事や問題解決が必要とされる仕事です。問題解決といっても、単純な課題の処理ではなく、その問題自体が何なのかを考える仕事などは人でなければ絶対にできません。人工知能は過去のデータを学習したうえで答えを導きだすので、過去に経験していない難しい問題を解決することは、人にしかできません。
そして、私たちが「人でなければできない仕事」をするためには、沢山のインプットが必要です。単純な業務は人工知能が代行することで、煩雑な作業から解放され、ゆとりと思考の時間を得る・・分かりやく言うと、余った時間で自己成長のための業務に取り組んだり、週休3日が実現することで業務以外の経験が増えたりすることです。
私たちはこのように、「HUE」によって『世界中の「働く」を変える』ことを目指しています。
―― ワークス徳島人工知能NLP研究所でも人材採用を行っているそうですが、どのような人材を採用したいとお考えですか。
徳島でいうと、自然言語処理分野の研究開発経験があることが大前提となります。自然言語処理分野の研究開発を行っている方は、ぜひ、 こちらの求人をご覧いただいて、応募いただきたいですね。
ワークスアプリケーションズが求める人材の共通点は、問題解決能力がある人です。
少し厳しく聞こえるかもしれませんが、新人研修でも「教えない」方針をとっており、与えられた課題に対して「自分で考えて解決する力」を発揮してもらうことを重視しています。
こうした考え方は、企業文化としても浸透しています。例えば、当社の行動指針の一つに「なぜなぜ思考」というものがあります。目の前の問題に対して、常識や前例にとらわれるのではなく、「なぜこうするのか?」「なぜこうすることができないのか?」「目的はなにか?」といった問いかけを繰り返します。このように「なぜ」を繰り返すことで、問題の「本質」「事実」「目的」を明らかにすることができるのです。
大学では教授に言われた研究をすることが多いかもしれませんが、「なぜ、それをしなくてはいけないんだろうか?」と疑問を感じ、自分自身でこんな課題に挑戦したい、こんな問題を解決したい、と自発的に考えられる人材を求めています。一般的にいうと、少し生意気とも思われるような方、少し変わった人と思われがちな人かもしれませんね。(笑)
強い課題意識を感じ、自分自身で何かをクリエイトしたい、言われた仕事ではなく自分で課題を見つけて取り組みたい、と思う方にとっては、当社の仕事は非常に面白く、やりがいを感じることができると思います。
―― この徳島が人工知能の分野で躍進する可能性はあるのでしょうか。
はい、十分あると思います。
徳島が、人工知能における知見が集積される土地となることを目指したいですね。私たちは、人工知能の自然言語処理分野を扱っていますが、画像処理の分野や音声認識の分野など、違った分野の研究開発をしている企業やSO(サテライトオフィス)が集まってくると、共同で新たな開発などにも取り組めるのではないかと思います。
その他でいうと、ロボット開発の企業なども来ていただけると、さらに幅広いコラボレーションが生まれる可能性があり、面白いですよね。
もちろん、地元・徳島の企業や徳島の大学の研究機関とも連携し、新たな研究開発のテーマにも取り組めると面白いと考えています。
ワークスアプリケーションズの研究機関があることもそうですが、徳島県がより一層、人工知能関連の誘致活動に力を入れてくれると、さらに面白いことになっていくのではないでしょうか。
―― 内田さんは徳島で住む中で、デメリットを感じることはありませんか?
デメリットは、実は一切感じていないんですよ。(笑)
―― そうなんですね!とても嬉しいことですが、それは何故ですか?
ネット環境が充実しているので、欲しいものは通販で何でも手に入りますし、情報を収集するにしても多様な手段がありますので、もはや都心との情報格差もなくなっています。今、無理をして都会に住む必要性はなくなってきているのではないでしょうか。仕事の面においても、東京・上海・シンガポール・インドの拠点と、ネットミーティングなどを通じて緊密にコミュニケーションがとれますし、同一拠点で皆が集まる理由はないと感じます。
また徳島では、大都市とは違って満員電車に消耗することなく通勤できます。住居についても、とても良いと感じますね。手頃な家賃で、良い賃貸物件に入居できますし、同じく手頃な価格で一軒家を持つことも可能です。
夏には、メンバーで「阿波踊り」に参加するなど、徳島ならではの文化を感じることができることも楽しみの一つです。
場所にとらわれず、働きたい場所で働くということが、特にIT業界では益々進んでいくのではないかと思います。