徳島にある「人工知能(AI)・自然言語処理」の研究開発拠点が、徳島のITの未来を照らす(前編)
株式会社ワークスアプリケーションズ
ワークス徳島人工知能NLP研究所 所長 内田 佳孝 氏
株式会社ワークスアプリケーションズは、大企業向けのERPパッケージ市場※で約1300企業グループへの導入実績を持ち、日本では7年連続トップシェアを誇っている。そして、2014年、世界で初めて人工知能を搭載したビジネスアプリケーション「HUE(ヒュー)」のコンセプトを発表。
2016年1月から販売を開始し、2017年9月現在、既に50社以上に導入。今後は日本のみならず、海外企業への導入拡大を目指し、人工知能で世界の”働く”を変える試みが始まっている。ワークスアプリケーションズは今、日本のITを牽引する存在として注目されている。
そして、「HUE」の要となる人工知能・自然言語処理の研究開発拠点こそが徳島市東大工町にある「ワークス徳島人工知能NLP研究所」である。徳島市のシンボルでもある眉山にほど近いビルの一室に、同社の精鋭エンジニアが集結する。
ワークス徳島人工知能NLP研究所 所長 内田 佳孝 氏にお話を伺った。
※ERPとは、Enterprise Resources Planning の略であり、企業経営の基本となる資源要素(人・モノ・金・情報)を適切に配分し、有効活用する計画=考え方。ERPシステムは、日本語では「統合基幹業務システム」と呼ばれ、企業経営に欠かせない経理・財務、調達管理、倉庫・物流、営業・販売、人員管理などのデータを一元管理し、オールインワンで提供するソリューションのこと。
―― 内田さんは、ワークス徳島人工知能NLP研究所の所長ですが、どのような経歴があり、所長となられたのでしょうか。
私は、徳島県鳴門の生まれで、地元の阿南高等専門学校へ進学しました。そこでロボットコンテストに参加し、人工知能に興味を持つようになりました。より深く人工知能についての研究をしたいと考え、2000年、九州工業大学情報工学部に編入学をしました。
自然言語処理の分野で対話システムの研究を行い、2004年、修士課程修了後、地元・徳島にあるソフトウェア開発会社に入社。その後、約12年にわたり、自然言語処理の研究開発から商品化に携わっていました。
研究分野は、人工知能分野の中での対話システム、形態素解析、かな漢字変換、情報検索、情報抽出、テキストマイニング、レコメンドエンジンなどです。
当時、自然言語処理分野の研究開発を行っている会社は日本でもほとんどなく、私のような経験者はとても珍しかったのではないかと思います。
ワークスアプリケーションズは、「優秀な人材がいる場所に事業所を作る」という方針があるので、私たち自然言語処理の研究開発に長けたメンバーの多い、徳島に研究所を開設しました。私は、2016年7月、ワークスアプリケーションズに入社しました。
―― それ以外でも、徳島に「ワークス徳島人工知能NLP研究所」を設立して良かった点はありましたか?
似た理由となりますが、人材確保の面で良い立地だと考えています。自然言語処理分野では、徳島大学と奈良先端科学技術大学院大学、京都大学が先進的な研究を行っています。そのため、徳島では自然言語処理分野に長けた人材を確保しやすいと考えています。
また、徳島県は全国屈指の高速情報通信網を整備していることもあり、IT関連企業のサテライトオフィス誘致を積極的に行っています。徳島県庁から立地面でのサポートを熱心に頂けたことも、徳島に研究所を構えて良かったと感じる面です。
それだけでなく、県庁の方が私たちの研究に興味を持ち、また定期的な情報交換を行ってくれますので、徳島県とも良い関りを持つことが出来ています。徳島県としても人工知能の開発サポートに非常に積極的ですので、徳島県と協力しながら人工知能で地域に貢献できる取り組みができると面白いですね。
―― ワークスアプリケーションズは、ERPパッケージ市場で日本トップシェアを誇っているということですが、1996年に創業した貴社が躍進を続ける理由を教えて下さい。
IT企業と言うと技術力の高さだけが重要だと思われがちですが、私は、それに加えて当社の考え方、理念がこの躍進に繋がっていると思います。
日本の大手企業の商習慣は、世界的にみて細かく複雑です。1990年代、「COMPANY」ができるまでは、その商習慣に対応するERPパッケージをつくることは不可能と言われていました。
当時、日本の大手企業がシステムを導入するには、オーダーメイドでシステムを組むか、海外のERPパッケージをカスタマイズするという2つの選択肢しかありませんでした。オーダーメイドのシステムですと、当然莫大な費用が掛かります。
海外のERPパッケージであれば、初期段階の導入コストを抑えることはできますが、日本の商習慣に合致していないこともあり、カスタマイズが発生し、追加の多大な費用が掛かることはもちろん、工数もかかります。そのため、情報システムの投資効率は、「米国に比べて10年は遅れている」と言われていました。
このままでは日本企業は弱体化し、国際競争力は低下し続ける。IT投資コストそのものを劇的に下げるためには、日本の大手企業がそのまま使えるERPパッケージの製品化が必須である、このミッションに挑戦するという想いこそが、当社の躍進の理由だと考えています。
そして、大手企業向けERPパッケージ「COMPANY」は、日本の大手企業に必要とされる業務案件や商習慣、さらにはお客様から頂いた要望を汎用化し、パッケージの機能へ反映することで、日本の大手企業がカスタマイズすることなく使えるERPパッケージとなり、現在では、大手企業グループ1,300社以上に導入される、ERPパッケージのスタンダードとして評価されるまでに成長しました。
―― 高い技術力があるからこそ、日本でトップシェアを誇るERPパッケージ「COMPANY」を作ることができたのでは?と思うのですが、やはり想いや理念が重要ということなんでしょうか。
そうですね、「日本の商習慣は複雑だからパッケージで汎用的な製品を作ることができない」と誰もが思っていたわけですから、それを「できる」と考え、挑戦したことが大きな第一歩だと思います。また、「企業の情報投資効率を世界レベルへ」という強い使命感があったからこそ、実現したのではないかと思います。
まずは、理想の姿を描いて、どのように実現をしていくかを考えるという方法は、人工知能を搭載したERPシステム「HUE(ヒュー)」の開発コンセプトにも繋がっています。そうしたコンセプトをもとに、ユーザビリティを重視した点が「HUE」の特長でもあると思います。
―― 「ワークス徳島人工知能NLP研究所」では、「HUE」に搭載されている人工知能の中でも、自然言語処理分野の研究開発をされているのですよね。「HUE」の開発がどのようにスタートしたのかを教えて下さい。
2012年頃、当社CEOは企業で使われているITのユーザビリティは遅れているのではないかと、考えるようになったそうです。例えば、FacebookやGoogleなどコンシューマー向けのITは格段に使いやすくなっています。例えば、歩きながらスマホの地図アプリでルートを確認し、所用時間を計測してくれる。Siriなんかもとても便利で、発言内容を理解し自動で操作をしてくれます。ITの知識がない人でも簡単に使えますし、画面もとても見やすいですよね。
それに比べて、エンタープライズ※向けのITシステムは技術的な進化が少なく、こと“ユーザビリティ”という面では長らく進化が停滞していました。どちらかというとユーザー側がシステムの操作方法を理解・習得し、使いにくさに慣れながら利用するというスタイルが定着していたと思います。
※エンタープライズとは、IT業界における市場や製品カテゴリー区分の一種で、大企業、中堅企業、公的機関などの比較的規模の大きな法人に向けた市場や製品のこと。エンタープライズ向けのITシステムは、一般的に「業務システム」とも呼ばれている。
こうした状況に対して、業務の効率化をより推進するためには、“ユーザビリティ”を徹底的に追求し、今までの概念にはなかった、全く新しいエンタープライズシステムを構築する必要があると考えました。それを形にしたのが「HUE」です。
「HUE」のコンセプト設計には2年も費やしました。世の中に通用して、かつ世界を変えるようなコンセプトのうえで、それを実現するために必要な技術が何なのかを考えるというスタイルです。技術ありきではなく、コンセプトを重視した開発方法です。そして、そのために必要な技術の一つが人工知能だったということです。
―― ワークスアプリケーションズが、2014年に世界で初めて人工知能を搭載したERPシステム「HUE」のコンセプトを発表したことは、世界中のIT企業を驚かせたんですよね。その世界が驚くような技術の研究開発拠点がこの徳島市にある「ワークス徳島人工知能NLP研究所」だと聞くと、私たち徳島県民もワクワクします!
後編では、「HUE」が実現する世界を詳しく教えていただき、また、この徳島が人工知能の分野で躍進する可能性、徳島でIT分野がより活性化する可能性などもお聞きしました。