東京のフリーランスデザイナーから徳島のフリーランスデザイナーへ。地域との深いふれあいの中で生きる楽しさ。

+Life Studio[プラス・ライフ スタジオ] 秋山 諒太 氏

+Life Studio[プラス・ライフ スタジオ] 秋山 諒太 氏

―― 東京からのIターン。移住のきっかけや経緯を教えてください。

移住を決めたのは24歳。もし失敗しても若い時の方がやり直すことも難しくないだろう、という気持ちからでした。子供の頃からなんとなく将来は田舎で暮らしたいなと思っていたので、「よし、今のうちにやりたいことをやろう」と。当時は東京でフリーランスをしていて、主にWebサイトと映像の制作をしていました。

移住に際しては、特別この地域に行きたいというような思いはなく、地域おこし協力隊の隊員募集の中からデザイナーを募集しているいくつかの地域に問い合わせを出し、一番早く返答をくれた勝浦町に決めました。担当の方が丁寧に対応してくれたことも決め手になったと思います。
それまで勝浦町どころか、徳島県にも来たことはありませんでした。
言葉は悪いかもしれませんが、本当にノリと勢いでやって来たんです。

―― フリーランスのデザイナーとして、徳島だけでやっていけるのでしょうか?

地域おこし協力隊として3年、道の駅「ひなの里かつうら」で、イベントの運営やWebサイトの作成などを通して町のPRを行いました。
その活動の中で、シティ誌の元編集長だったフリーライターの方とご縁ができたんです。任期が満了した後も、仕事や徳島のデザイナーさんを紹介してもらいました。
そのつながりのおかげで、今受けている仕事は100%徳島の団体や企業からの発注です。

移住当初は、半分ほど東京から仕事を受けていて、徳島の発注だけでやっていけるようになったのはここ3年くらい。町内にある団体のWebサイト制作や運営の手伝い、地元企業の店内サイネージ用の映像やYoutubeにアップする用の動画を作ったりしています。

収入については東京でのフリーランス時代とさほど変わりはありません。仮に減ったとしても、生活コストがかからないので十分暮らしていけます。
新規の開拓や、仕事量をキープしていくための働きかけは東京であっても必要なので、その辺に地域差はないですね。徳島だからデザインの仕事がないと感じたことはありません。

―― 東京と徳島、デザインの仕事としての違いはありますか?

「デザインができる」というとWeb、動画、印刷物など媒体関係なくできると思われることも多いです。要望を受ける形で、やったことのなかった印刷物のデザインもやるようになりました。
自分はデザイン自体が好きというよりは、課題の顕在化やディレクションをする方が好きで、デザインはあくまでその手段・ツールという位置づけなので、やったことのない媒体でのデザインを求められることに拒否感はありませんでした。でもこの辺は個人差が大きいかも知れませんね。

インプットの面では、東京でいた頃と比べるとやはり量が減ったとは思います。
ですが代わりに意識的に情報を収集するようになりました。コロナ禍において良かった点は都市部でしか受けられなかったセミナーがオンラインに移行したことです。
移動の時間や金銭的なコストに見合う情報かどうかなど、かなり厳選していましたから。

徳島に来て実感するのは、東京でのトレンドや成功例をそのまま持ってきてもうまくいかないということ。これはどの地方でもそうだと思います。
その地域に関わっているからこそ、適切なローカライズができる。そこに面白さがあると思います。
地方では質のいいデザインの仕事ができないのでは、ということに関して言えば、そういうことはないと思います。

―― 徳島での暮らしはいかがですか?

楽しいです。仕事もプライベートも充実しています。
東京は遊ぶのにはいいけど、暮らしにとてもお金がかかる。地元が神奈川なので、帰省の際に少し遊びに行く程度で十分だと思っています。

東京はたくさん人間がいるのに人との心理的距離が遠かった。周囲との関わりの中で自分の存在を意識するタイプなので、同じマンションで隣の部屋に住んでいるのに挨拶すらしないという状況が自分にはすごく嫌でした。
今は近所の人が遊びに来てくれたり、作った野菜をもらったりする関係を心地よく感じています。

野菜が好きなので、旬を感じる食事はとても楽しい。畑を自分でやっていなくても、ご近所の方が下さるんです。
勝浦町はみかんが有名なので、秋になるとたくさんのみかんを頂きます。自分たちでは食べきれないので関東に住む家族に送って、お返しにお米がやってきたりします。金銭を介さなくてもモノや気持ちが巡っていくのがいいなと感じます。

東京で企業勤めをしていたときは、経験が浅いながらもリーダーを任せていただいたり、新事業の立ち上げをしたりと、貴重な経験を積むことができましたが、忙しさから家に帰れない時期もあったりして、人間らしい暮らしじゃないなと思っていました。今は健康にもなって、ほとんど病院にも行かない。移住して良いことしかありません。

―― 新しい試みや今後やってみたいことなどあれば、教えてください。

去年、自宅を改装して「恩送りの宿『ちょ』」を作りました。何か地域のためになることを1つすれば無料で泊まれるシステムです。することは掃除でも買い物でもなんでもOK。費用はクラウドファンディングで募りました。
正直、利用者は多くないのですが、これは仕事というより趣味のようなもので、来てくれた方といろいろお話できたらいいな、くらいの感じでやっています。

もらった野菜を誰かにあげて、別のものが返ってくるように、お金を介さずにサービスを循環させる仕組みを自分も作りたいなと。

それとは別に、地域おこし協力隊として3年、フリーランスのデザイナーとして3年、勝浦町と関わってきて、自分なりに「こういう形でなら町おこしに貢献できるのでは」という構想ができてきました。

思えば、子供の頃にIT企業勤めだった父が持ち帰った本を片手に簡単なプログラムを組んだのが始まりで、そこから趣味でWebサイトの制作を始めて、そのまま制作会社に入り、そこで動画制作を覚えました。好きなものがどんどん今に繋がっている。

30代になったので、今までの集大成のような気持ちでやってみたいと思っています。

―― 移住を検討されている方に、アドバイスするとすればどんなことでしょうか?

単純に合う、合わないもあるとは思いますので、可能であれば対象の地域に1カ月くらいは滞在してみるのがいいと思います。とはいえ実際は難しい場合が多いので、そうでなければ何度も足を運んでみるとか。

地域おこし協力隊としての活動を通して、たくさんの移住者の方と交流してきましたが、地方での暮らしに理想を持ちすぎている人はみんな帰ってしまいました。
過度な期待をすると、思い通りにいかなかったとき失望を感じてしまうのだろうと思います。

どこで暮らしてもその場を良くしていくのは自分、という気持ちであれば、徳島に限らず移住後の生活を楽しめるんじゃないかなと思います。

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