「選考などの場面で、自分をどのようにPRすればよいでしょうか?」
面接や書類作成にあたって、このような相談をよく受けます。謙虚さを美徳とする日本文化の中で、自分の魅力をアピールすることへの戸惑いを感じるのかと思います。
仕事の成果を伝える際に、
エピソード風に熱意をもって伝えるのが良いのか、より数字や具体的な手法を伝えればよいのか。
志望動機を伝える際に、
企業理念に反していても自分の考えやビジョンをはっきりと伝えることが良いのか、企業理念に沿って順序立てて伝えるのが良いのか。
質問や反論があった際に、
対立しないように同調した回答をするのが良いのか、多少の反論があっても率直に回答すれば良いのか。
伝える内容がある程度まとまっていたとしても、伝え方について悩むことがあるのではないでしょうか。
「相手が重視していること」について深く掘り下げて話すことができれば、より良い選考結果につながるでしょう。
しかし、「相手が重視していること」が分かればよいのですが、初対面でそれを掴むのは容易ではありません。
そこで、今回「コーチング」の分野で使われている、コミュニケーションタイプという発想を使って、相手が重視することを掴む方法をご紹介したいと思います。
「コーチ」と聞くと、スポーツのコーチと選手との関係をイメージしますが、スポーツの世界に限らず、相手の成長を促進する手法全般を指します。むしろ、心理学で「コーチング」というと、ビジネスシーンを想定していることが多いようです。
コーチングでは、相手の個性に合わせて指導方法を工夫します。いくら正しいことを言っても、相手が受け入れなければ、その効果が発揮されないからです。コーチングでは「相手が重視していること」を見抜き、受け止めやすい表現で伝えるコーチング・スキルを発展させています。
転職における面接でも、面接官のタイプを見抜き、受け止めやすい形で伝えることで印象をさらに良いものにすることができると思います。入社後も上司やお客様のタイプを見抜くことで、提案を受け入れてもらう確率を上げることができるはずです。
1.コントローラータイプ
コントローラーは自分で判断し、行動することにやりがいを感じます。
人からあれをしろ、これをしろ、と指図されることを最も嫌います。
状況をコントロールできる裁量権さえ与えれば、それだけで喜んで自分から働いてくれます。
●コントローラータイプの特徴
- ・自己主張が多く、感情表出は少ない
- ・敵との対立を恐れず、仲間を勇気づける
- ・起業家や経営者に多い
- ・決断力があり行動的、野心的
- ・人の話を聞かず結論を急ぐ
- ・支配的、威圧的
- ・優しい感情表現が苦手で他者から怖がられることがある
- ・正直でざっくばらん
- ・正義感が強く、自己保身的な態度を嫌う
●初対面でのコントローラーの見分け方
初対面のシーンでは、コントローラーは自分がコントロールされないように警戒した態度をとります。
以下のような態度を面接官がとっている場合、コントローラータイプの可能性が高いです。
- ・早口、結論や要点だけ話すので、話が短い
- ・データや事実など客観的な情報で裏付ける
- ・腕を組んだり表情が硬くなったり、警戒している態度をとる
●面接官がコントローラー
コントローラーは率直な態度を好みますので、質問への回答は「結論から入る」ことが大切です。
そのあとで理由を説明します。説明には経験した事実、またはデータなど客観的な内容が含まれている方が良いでしょう。ただし、長くなると興味を失いますので、客観的な裏付けがあることさえ理解してもらえれば十分です。
反論や再質問をされた場合にひるんではいけません。議論によって理解を深めようとするコントローラーにとって、反論することは興味を持った証拠です。この場合も、回りくどいことを言わず率直に話して下さい。対立を避けようと曖昧な回答をしてしまうと信頼を失います。
NG
コントローラーは誉め言葉を素直に受け取りません。何か下心があるのではないか、おだてて自分をコントロールしようとしているのではないかと感じ、警戒心を深める場合もあります。本心で褒める場合は、客観的な根拠を添えて、他意がないことを理解してもらえるようにしましょう。
2.プロモータータイプ
プロモーターは、注目されるのが大好きです。
自分が話題の中心になることを好み、チームの中心として働くことに喜びを感じます。
また、新しいアイディアを試す、チャレンジすることもモチベーションにつながります。
●プロモータータイプの特徴
- ・自己主張が強く、感情表出も多い
- ・常に賑やかで、仲間の気持ちを明るくする
- ・お調子者でうぬぼれ屋と思われるが、嫌な感じがしない
- ・よく話して、人の話はあまり聞かない
- ・飽きっぽい
- ・計画を立てたりその通りに行動することが苦手
- ・アイディアが豊富で想像力がある
- ・人から褒められることが大好き
- ・人を褒めることも好きでモチベーションを挙げるのが得意
- ・仕事を仕切るのが好きで得意でもある
●初対面でのプロモーターの見分け方
初対面のシーンでプロモーターは、場を盛り上げようと頑張ります。
情報が正確かどうかよりも、とにかく言葉を出し自分への注目・関心を引き付けようとします。
- ・話題があちこちに飛ぶので長くなり、展開が速いので話についていけなくなることがある
- ・自分の感情や主観を交えながら、ドラマチックに話す
- ・身振り手振りを交えてやや早口で話す
●面接官がプロモーター
プロモーターはビジョンを重視しますので、企業理念への共感を示すことが効果的でしょう。褒められるのが大好きですので、大げさなくらいほめちぎっても素直に受け取って喜んでくれるはずです。また、データより、デザインやイメージを重視するので、プレゼン資料にグラフや画像をふんだんに使えばより印象が上がります。
履歴書・職務経歴書では難しいかもしれませんが、レイアウトと整えて見やすくすることは重要です。
また、意表を突かれるような展開を好みます。会話の頭に「意外に思ったことですが」「実は」「最近知ったことですが」などをつけると興味を引くでしょう。
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プロモーターは飽きっぽい性格ですので、客観的なデータについて長く話すと興味を失います。反面、人への興味が強いので、相手または自分など、人を主語にして話すことで興味を引き続けることができます。
3.サポータータイプ
サポータータイプは、仕事より人間関係と調和を最も重視します。
そのため自分が忙しくても、人からの頼まれごとは断りません。競争心が低く、あまり出世欲がありません。
純粋に相手のためになることに喜びを感じ、人に承認されることがモチベーションにつながります。
●サポータータイプの特徴
- ・自己主張が少ないが、感情表出が多い
- ・共感性が高く、周囲に癒しを与える
- ・無意識のうちに相手からの感謝や愛情を求めている
- ・常に関心を持ってもらいたいと思っている
- ・決断に時間がかかる
- ・リスクを冒すのは苦手で対立を避ける
- ・高い目標や計画の立案には興味がない
- ・暖かく穏やか
- ・頼まれたことは断らない、協調性が高い
- ・人の心を読むのが得意
- ・人を援助することを好み、ビジネスよりも人間関係を優先する
●サポータータイプの見分け方
初対面の場合、サポータータイプは対立を避けようとしますので、味方であることを示すために聞き役に回ります。そして、相手の考えを理解したうえで自分の考えを述べます。
- ・うなずきながら話を聞いてくれる
- ・批判にならないように配慮しながら話すので、くどくど長くなることがある
- ・小さな声でゆっくりと話す
●面接官がサポーター
サポータータイプは、周囲の同意を得らえるかを重視します。面接では最終決定権者である社長の意向を忖度している可能性が高いでしょう。そのため、面接官の意見ではなく、社長のお考えや人柄について質問すると答えやすいはずです。そして社長の方針に沿って自己PRするのか有効です。
また、「調和」を重視しますので、丁寧に会話を進めることも大切です。一方的にまくしたてるような説明をすると、納得していないまま自分の考えを押し殺してしまうことがあります。そして後になって突然拒絶されることになります。説明が長くなった場合は、「不明なことはなかったでしょうか」「質問の答えになっていたでしょうか」など、相手の意向を確認してください。サポーターからは気を使って「特にありません、大丈夫でしたよ」という返事があると思いますが、内心では配慮してくれたことを嬉しく思い、安心しているはずです。
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リスクや対立を避け、調和を重んじますので、強い個性を出すことや自己主張はネガティブに働くでしょう。
4.アナライザー
アナライザーは慎重な性格で、行動よりも計画を重視します。
動く前には情報を収集し、じっくり状況を観察し分析します。計画を立てることが好きで、それを完璧にこなすことに喜びを感じます。しかし、完璧で納得のいく計画が完成するまで行動に移さないことがあります。
●アナライザータイプの特徴
- ・自己主張が少なく、感情表出も少ない
- ・常に冷静で周囲に落ち着きと秩序をもたらす
- ・ルールやマニュアルを好む
- ・他人を批判することを好まない
- ・何を考えているのか分からないと感じることがある
- ・大人数は苦手、孤立しても苦にならない
- ・傍観者やコメンテーターという「傍観者」になりがち
- ・変化や混乱に弱い
- ・決断に時間がかかる
- ・計画や分析を好む、プランニングが好き
- ・慎重に行動する
●アナライザータイプの見分け方
アナライザーは雰囲気よりも正確さを重視しますので、うかつなことは話しません。面接官となった場合は盛り上がりに欠けると思いますが、それがアナライザーのペースですので気にしないでください。
- ・間違いのないようゆっくり、言葉を選びながら話す
- ・論理的に1から順を追って話すので長い
- ・事実や客観的なデータなどに基づいて淡々と話し、感情的表現を避ける
●面接官がアナライザー
アナライザーは秩序を重視しますので、順序通り説明する必要があります。
例えば、「御社の事業では、○○という経験を活かせると思います。そこでは…。成果は…。ですから御社でも…。」など順序立てて説明出来れば信頼されるでしょう。
アナライザーはリスク回避も重視します。もし懸念点を伝えられたら、それを払しょくしなければ前に進みません。その際、想いや意欲は全く心に響かないことを理解しておいて下さい。数値的など客観性の高いデータに基づいて正当性を示すことが必要です。また、「体感値ですが7割くらいの確率で出来ると思います。なぜなら…」といったようにたとえ感覚的でも数値を出すと興味を引くことができます。
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アナライザーは細部を気にする傾向があります。そのため、どうでもいいと思えるようなこともいくつも、熱心に聞いてくることがあります。その時に不誠実な態度をとると一気に信頼を失いますので、丁寧に説明することが大切です。
まとめ
タイプ分析を理解することで、社内のコミュニケーションをよりスムーズに進めることに活用頂けます。上司や部下に何かを伝える時に、自分の発言があまり理解されていない感じる際は、その人のタイプ分析を予測してみて、伝え方を変えてみるとよいでしょう。
例えば、アナライザータイプの方は、順序立てて話しがちですが、スピード感を大切にするコントローラータイプが上司なのであれば、結論から端的に伝えることを意識するとよいでしょう。
人は一つのタイプに固定化されるわけではありません。状況によって無意識に使い分けています。職場では癒しのサポーター社員でも、家に帰るとコントローラーとしてその場を取り仕切っていることもあります。
状況や相手のタイプによって、自分自身の行動や伝え方を変えることができることで、より良いコミュニケーションが取れるようになるでしょう。
「私はこんな人間だから」と決めつけず、時と場合によって、自分自身のタイプを演出することにも挑戦してみてください。