徳島大学発のスタートアップとして設立された、バイオテクノロジー系企業「株式会社セツロテック」。
3つのコア技術である「生殖工学」「ゲノム編集技術」「ゲノム編集ツール」により、ゲノム編集における受託事業・研究開発・商品販売および関連サービスを提供しています。
設立以降、数多くのメディアに取り上げられ、「NEDO TCP」における最優秀賞を受賞したほか、さまざまなビジネスコンテストでの受賞歴もある注目のベンチャーです。
2020年にはシリーズAの資金調達を完了。2022年11月には住友商事株式会社との資本業務提携が発表されるなど、事業の新規性、革新性だけでなく、商業ベースでの実績も重ねています。
現在は上場を視野に入れた事業拡大を計画中。事業の概要や、国内外問わずあらゆる場所で複数のプロジェクトが同時進行していく同社では、どのようにシステムを活用しているのか。
コーポレート部で部長を務める、矢野美和氏にお話を伺いました。
聞きなれない言葉ですが、ゲノム編集はさまざまな産業分野に応用できる技術なんです。
ゲノム編集とは、生物のゲノムのDNAを意図した配列でピンポイントに切断し、遺伝子の配列を変化させることで、狙い通りに遺伝子の機能の変化や停止を引き起こす技術です。
例えば、「筋肉の成長を阻害する遺伝子」の機能を停止させると、ゲノム編集された家畜では、通常より肉付きが良くなるということが起こります。農産物にも同じことが言えて、有用な成分の含有量を増やした野菜を作ったり、病気や害虫に強い野菜にしたり、白く特徴的な見た目の果物なんかも作ることができるんですよ。
セツロテックの最近のプロジェクトですと、モンゴル生命科学大学や国立動物ジーンバンクセンターと共同で、カシミヤ繊維の安定した高品質化を目的としたカシミヤヤギの品種改良を行っています。
セツロテックでは、これらを「PAGEs(Platform App(lication) using Genome Editing by Setsurotech)事業」と名付けて、生産・繁殖性の効率化、風味・質量・栄養価の向上、感染症・疾病対策、アレルゲンの除去など、さまざまな課題に対するゲノム編集育種を、主に畜産・農産分野の企業に向けて提案しています。
また、大学や製薬会社などの研究者に向けて、オーダーに合わせたマウスやラット、細胞などを製造・販売する研究支援事業も展開しており、医療・医薬の分野でも高い需要があるんです。
現在も「ゲノム編集産業革命で人々の暮らしを豊かに」という企業理念にマッチしたさまざまなプロジェクトが進行しています。
コロナ禍前からリモートが当たり前。必要なクラウドサービスをその都度、導入しています。
セツロテックでは、コロナ禍以前、それこそ設立当初から、リモートでのやり取りが当たり前の環境でした。
メインとなる研究所は徳島にありますが、経営陣は東京と徳島を行ったり来たりしていますし、営業の主要エリアはやはり関東・関西という都市部になります。
経営・研究・営業・管理と、セクションごとに離れた場所で稼働しているため、クラウドサービスの活用は必須とも言えます。
社内のやり取りは、ほとんどチャットシステムのSlackやLINEを使っていて、直接会話をする場合はSkypeやGoogle Meet、全体会議や社外の方を含めた打ち合わせはZoomと、ツールをあまり固定せず、相手や状況に応じて適切だと思う選択をしています。
ログが様々なところに残るので混乱しませんか?とご質問いただくこともあるのですが、必要なファイルはクラウドストレージで共有していますし、進捗管理や工数管理のシステムで状況の共有もしているので、業務上の連携に問題があると感じることはほとんどないですね。
会社を設立した2017年当時から、Google Workspace、Slack、経理システムは導入しており、その後、研究の進捗管理、全体の工数管理、営業支援などのシステムが、社員の要望によって徐々に増えていきました。
基本は実際に使う人間からのボトムアップで導入が決まります。
当時、クラウドサービスは今ほど多くはなかったため、ERPなどではなく、それぞれ目的に合わせたシステムを導入していました。もちろん連動できる部分はしていますが、今でも1つに統合はしていません。
いいものがあれば取り入れて、状況に応じて乗り換え、不要になればやめる。考え方はごくシンプルです。
会社の柔軟性を考えると、この方がうちには向いている気がしています。
最近では上場に向け、経理システムはグレードを上げて、勤怠管理システムも新しくしました。
コロナ禍の数少ない恩恵だと思うのですが、クラウドサービスの進化はありがたいことです。少し前であれば、上場準備に耐えられる経理システムの中にクラウドサービスという選択肢は入ってこなかったのかなと思います。
管理システムの活用でスーパーフレックスもスムーズに。組織を強固にするのはリアルの力。
現在は福島にも研究所があり、研究員はプロジェクトチーム単位で動いています。
培養の時間などに合わせて研究所にいる必要があるので、スーパーフレックス制を採用しており、勤務時間もそれぞれになります。通常の研究職であれば膨大になってしまう残業を、スーパーフレックス制にすることである程度抑えられているのですが、その点においても勤怠管理システムを活用することでスムーズな運用ができています。
また、工数管理はかなり細かく行っていて、研究員、事務など職種に関わらず全社員が何に何時間費やしたかを毎日入力しています。部門長が毎月この工数管理表を確認し、個人の生産性とプロジェクトの人件費を管理しています。毎日の入力は大変だなと思われるかも知れませんが、これは慣れですね(笑)。
この工数管理のおかげで、離れていたり勤務時間がすれ違っていたりしても、遅れを早期に発見できます。上司も「スケジュール通りできていない」と指摘するというよりは、その原因を明確にして取り除いていく、というマインドで使用しています。逆に予測よりも早く作業が進んでいる場合は、評価の対象になることももちろんありますよ。
新型コロナウイルスの感染拡大もあり現在は休止中ですが、以前は年に1度合宿をやっていました。
研修や自分の業務を発表する場があり、「こういうことやっています」「こういう協力をしてほしいです」といった話をするんです。
週1回の研究ミーティングはありますが、プロジェクトチームや部門が違うと何をやっているのかお互い知らないこともあるので、この合宿の場では全社員に共有ができるのが良かったです。リモートで進めた業務をリアルで共有することで、地盤が固まるような感覚があります。
当たり前ですが、たまには実際に会って話すことも、組織を運営する上では大切なことですよね。
独自技術の活用で産業の発展に貢献する。進化のためには変化を受け入れることが大切です。
セツロテックでは、2022年から新たに、独自のゲノム編集因子「ST8」を活用してゲノム編集産業を開拓することを目指す「PAGEs」事業を立ち上げました。この事業に対しては、国内外で豊富な事業化経験を持つ住友商事株式会社と協力をしていく体制になっています。
「ST8」とは、セツロテックが独自に開発・改良し、特許も取得したゲノム編集因子です。ゲノム編集因子は、DNAを切断するための「はさみ」として働く酵素のことを言います。
これまでの多くの研究では、アメリカで開発されノーベル化学賞を受賞した「Cas9」という分子が広く使われていました。
「Cas9」は、大学などアカデミックな用途での研究利用は無料なのですが、産業界で商業利用する場合は高額なライセンス料が発生し、原価コストが非常に厳しい状態でした。
そこで、そのような制約なく、より安価にゲノム編集商品を研究開発するために、セツロテックが開発したのが「ST8」になります。
「Cas9」と異なり、技術特許のライセンスがシンプルなため、事業化を進めやすい特徴があり、ゲノム編集産業の発展のためにも、広く使っていただきたい技術です。
大きな話だと思われるかもしれませんが、私たちは、今後、人類が直面する食糧難や環境問題に対して、ゲノム編集は非常に重要な解決手段になると考えています。
各プロジェクトの事業化にあたって社内体制にも影響があるかも知れませんが、これまでの経験と培った社風を大切に、今まで以上に柔軟でしなやかに変化していきたいですね。
会社概要
設立 |
2017年2月22日 |
資本金 |
1億円 (2022年1月1日時点) |
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売上 |
非公開 |
従業員数 |
31名 |
事業概要 |
ゲノム編集における受託事業・研究開発・商品販売および関連サービス |
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住所 |
徳島県徳島市蔵本町3丁目18-15 藤井節郎記念医科学センター |