スタッフコラム

労基署による立入調査結果と平均残業時間のまとめ(2017年度調査)

こんにちは、キャリアアドバイザーの中西謙一郎です。
今回のスタッフコラムのテーマは「残業」です。
厚労省のプレスリリースと、経団連発表の平均残業時間についてまとめています。

経団連は残業削減の事例などもたくさん紹介されていますので、参考になる方法もあると思います。
経営者にとっても重要なテーマだと思いますので、ぜひご一読ください。

1.労働基準監督署の立入調査結果(2017年度)

ここ数年、長時間の残業に対して厳しい目が向けられるようになってきました。2017年度(平成29年度)、厚生労働省では、長時間労働が疑われる全国25,676の事業場に対して「立入調査」を行いました。

[引用]
厚生労働省
「長時間労働が疑われる事業場に対する監督指導結果を公表します。」
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_00800.html(平成30 年8月7日
https://www.mhlw.go.jp/content/11202000/000342612.pdf

●監督指導の対象となった企業
労働基準監督署は、従業員からの相談が多い企業などをマークしていて、それをもとに立入調査をする企業を選ぶようです。

監督指導は、以下のような事業場を対象としています。
・各種情報から時間外・休日労働数が1か月当たり80 時間を超えていると考えられる事業場
・長時間にわたる過重な労働による過労死等に係る労災請求が行われた事業場

労働基準関連法令の違反があった事業場
「違反」があった事業場は約7割で、反対に3割は違反がなかったという結果です。

 違反があった事業場:18,061事業場(全体の 70%)

●違法な時間外労働があったもの
「違法な残業」が行われていたのは、約半数という結果です。

違法な時間外労働があったもの : 11,592事業場(45%)

●時間外・休日労働の実績が最も長い労働者の時間数
「200時間以上の残業」をしていた事業場が264もあるとは驚きです・・。
試算すると休日出勤が月5日、毎日の平均残業時間が6.4時間、日曜日以外は深夜24時30分ごろまで働いていることになります。
(※定時は9時~18時、月20日出勤の会社で計算)

・月80 時間を超えるもの : 8,592 事業場(74%)
・月100 時間を超えるもの : 5,960 事業場(51%)
・月150 時間を超えるもの : 1,355 事業場(11%)
・月 200 時間を超えるもの : 264事業場(2%)

●賃金不払残業があったもの
サービス残業をさせていたのは、7.3%とのことです。私の感覚だともっと多いと思いますが、「みなし残業」を導入している企業などは除外されているのではないかと思います。残業代不払いの温床とならないように、今後は裁量労働制への監督指導の強化に乗り出すようです。

賃金不払残業(サービス残業)があったもの: 1,868 事業場( 7.3%)

●労働時間の把握
労働時間を適切に管理し、把握するような指導も進めているようです。

労働時間の把握が不適正なため指導したもの: 4,499 事業場(17%)

●労働時間の管理方法
労働時間の管理方法で最も多いのはタイムカードですが、自己申告や使用者の現認など証拠が残らない管理方法も半数近くあるようです。

・使用者が自ら現認 : 2,328事業場(9%)
・自己申告制 : 9,494事業場(37%)
・タイムカードを基礎 : 8,492事業場(33%)
・ICカード、IDカードを基礎 : 4,867事業場(19%)


2.
今後立入調査など重点監督の対象となりやすい企業

残業代の支払いを合法的に免れる方法として、「裁量労働制」を導入する企業もあります。本来の制度趣旨を逸脱し、残業時間規制の潜脱手段として用いられている現状を適正化するため、今後立入調査による監督指導が強化されることになりました。
2018年2月から裁量労働制を導入している企業に自主点検を求め、協力しなかった企業などには重点監督を実施するそうです。

「厚生労働省では、裁量労働制の適正な運用が図られるため、裁量労働制を採用している事業場において、法令に従った運用がなされているかどうかを事業主自ら点検することを目的として、本年2月より、自主点検を実施してきました。
事業主が自主的に必要な改善を図ることを促すとともに、自主点検結果を踏まえ、自主点検結果報告書未提出事業場、労働基準法違反や指針に反する疑いがあるなど、運用の改善が必要と考えられる事業場などに対して重点監督を実施します。」

 [引用]
厚生労働省
「裁量労働制の運用の適正化に向けた自主点検の結果について公表します」
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_00768.html(平成30年8月7日)

 

●自主点検の結果集計
自主点検結果の集計がありますが、内容を見ると実態とは異なる回答をした企業も多いのではとも感じます。

【専門業務型】の集計結果一部抜粋
・みなし労働時間と労働時間の状況が相当程度乖離しているもの : 93事業場(1.2%)
・業務の遂行の手段及び時間配分の決定等についても具体的に指示をする場合がある : 117事業場(1.5%)

 [引用]
厚生労働省
「裁量労働制の運用の適正化に向けた自主点検の結果について公表します」
https://www.mhlw.go.jp/content/11202000/000342189.pdf(自主点検結果の提出状況)
https://www.mhlw.go.jp/content/11202000/000342190.pdf(自主点検結果の集計)


3.残業時間や勤務時間の全国平均

平均的な残業時間はどれくらいでしょうか?経団連の調査結果が発表されていますのでそれもまとめました。
自分の実感と合致するかチェックしてみて下さい。
※( )は筆者追記

一般社団法人 日本経済団体連合会
「2018 年労働時間等実態調査 集計結果」
http://www.keidanren.or.jp/policy/2018/060.pdf(2018年7月17日)
http://www.keidanren.or.jp/policy/(Policy(提言・報告書))

●平均時間外労働時間(年間)
残上時間は年々、少しずつ減少しているようです。ただ、月平均が21時間、1日になおすと1時間前後というのは、少し違和感があります・・。
もう少し多い気もしますが、あなたはどうでしょうか?

2015 : 264時間/年(22時間/月)
2016 : 256時間/年(21時間/月)
2017 : 252時間/年(21時間/月)

●年間総実労働時間(一般労働者)
勤務時間は、年々少しずつ減少しているようです。

2015年 : 1,996時間/年(166時間/月)
2016年 : 1,981時間/年(165時間/月)
2017年 : 1,972時間/年(164時間/月)

<用語解説>
この集計で基準となっている「実労働時間」は実際に働いた時間です。
「実労働時間」とは、所定労働時間と残業時間をプラスして、実際に労働した時間の事
「法定労働時間」とは、労働基準法で定めた労働時間の事
「所定労働時間」とは、法定労働時間の範囲内で会社が定めた労働時間の事
「拘束時間」とは、実労働時間と休憩時間をプラスした時間の事

●従業員数別平均年間総実労働時間
大企業の方が勤務時間は短いということが言えるようです。

 300人未満 : 2,047時間/年(170時間/月)
1000人未満 : 2,012時間/年(167時間/月)
5000人未満 : 2,022時間/年(168時間/月)
5000人以上 : 1,951時間/年(162時間/月)

●女性比率が高い上位100社の平均年間総実労働時間
女性比率が多い会社は、勤務時間が短い傾向があるようです。面白い統計です。海外では女性管理職が多い企業は株価が高いという傾向があると聞いたことがあります。

全体 : 1,972時間/年(164時間/月)
女性比率の高い企業上位100社 : 1,885時間/年(157時間/月)

●KPIの導入と平均年間総実労働時間
KPIは効果があるでしょうか。KPを導入している企業でも、達成のためにPDCAを回していない企業は勤務時間が増えています。
「計画を立てるだけなら何もしないほうがまし」という結果です。

全体 : 1,972時間/年(164時間/月)
KPIを導入している企業 : 1,969時間/年(164時間/月)
KPIを導入しているが、PDCAを回していない企業 : 2,014時間/年(168時間/月)
KPIを導入し、PDCAを回している企業 : 1,941時間/年(162時間/月)

●管理監督者と一般労働者の平均年間総実労働時間比較
管理職の方が長く勤務しているようです。あなたの身の回りではどうでしょうか?残業代不払いの隠れ蓑として利用される「名ばかり管理職」が増えないように注意しないといけません。

管理監督者 : 2,050時間/年(171時間/月)
一般労働者 : 1,972時間/年(164時間/月)

●年次有給休暇取得率
有給休暇の取得率も増加傾向にあります。年間5日は必ず取得させることが今後企業には義務付けられますが、徳島でも先行的に実施している企業もあり、理解がある企業は多いように思います。

2015 : 62.9%
2016 : 65.3%
2017 : 66.2%

●従業員数別年次有給休暇取得率
有給休暇の取得率を従業員規模別にみると、中堅企業が最も有休消化率が低いようです。少し意外な結果ですが、確かに中小企業では、家族行事などで融通を効かせてくれる経営者、上司も多いように思います。

~300人未満 : 53.0%
1000人未満 : 49.7%
5000人未満 : 59.9%
5000人以上 : 69.7%

●勤務間インターバルの導入状況
300人未満の企業では導入0%とは驚きました!

100人未満 : 0%
300人未満 : 0%
1000人未満 : 5.7%
5000人未満 : 10.1%
5000人以上 : 17.0%

●長時間労働の是正と生産性向上にむけた取組み事例
残業削減のための対策を例示してくれています。かえって残業が増えそうな事例もありますが、役に立ちそうな事例もあると思います。

□「過重労働防止の為のガイドライン」を定め、時間外労働明示の仕組みの明確化や、要因分析・対策を実施
□全社を挙げたゼロベースの仕事の棚卸による時間創出(無駄な業務の洗出し)
□時間あたり労働生産性の評価を給与に反映
□休暇取得計画表を作成し、全員が休暇予定を共有し、見える化を実施
□業務のローテーション等による多能工化の推進
□創意工夫して残業時間を短縮したなど、働き方改革に貢献が認められた作業所を表彰
□テレワーク、モバイルワーク、シフトワークなど、時間や場所に捉われない柔軟な働き方の積極実施、全社推進
□社内会議の削減・集約、打合せ資料の見直し(ペーパレス化)
□変形労働時間制を活用し、決算など繁忙期への対応
□ノー残業デー・プレミアムフライデーの実施

●長時間労働につながる商慣行の是正に向けた各社の取組み例
商慣習そのものを変える、そのために顧客にも連絡自粛などの配慮を求める内容が多く実効性があると感じます。

<長時間労働につながる 商慣行の是正に向けた共同宣言>
http://www.keidanren.or.jp/policy/2018/060.pdf(p.18)

  1. 関係法令・ルールの遵守に加え、取引先が労働基準関連 法令に違反しないよう、配慮する。
  2. 発注内容が曖昧な契約を結ばないよう、契約条件(発注 業務・納期・価格等)の明示を徹底する。
  3. 契約時の適正な納期の設定に加え、仕様変更・追加発注を行った場合の納期の見直しなどに適切に対応する。
  4. 取引先の休日労働や深夜労働につながる納品など、不要 不急の時間・曜日指定による発注は控える。
  5. 取引先の営業時間外の打合せや電話は極力控える。
  6. 短納期・追加発注・高品質など、サービスの価値に見合う適正な価格で契約・取引する。

●産業別の取組み事例
産業別に事例を端的に紹介しています。とてもたくさんありますが一部を抜粋します。
http://www.keidanren.or.jp/policy/2018/060.pdf(p.19~)

<建設業>
・週休 2 日取得が可能な行程設定になるよう発注者へ要請
・不要不急の休日・夜間対応を回避するよう発注者等への要請等

 <製造業>
・トップ自らが働き方改革の取組みの理解を要請
・顧客との間で、仕様や条件に関する十分な認識の共有を図る
・急な仕様変更や臨時要求に対しては予め対応できない旨を事前通知する等
・仕様変更の要望を受けた場合に、納期見直し等についてお客様と調整を行う
・取引先の営業時間外の打ち合わせや電話は極力控えるよう周知徹底を図る
・夜間・休日のメール送付を原則自粛する
・深夜・休日は緊急時を除きメール送信しない
・勤務時間外の電子メール等による連絡の自粛

 <情報通信業>
・労働時間削減の取り組みをお客様と共同で実施
・適正な開発期間設定、契約時の仕様確認、顧客の理解と協力
・取引先と事前に取り決めをしている製品リードタイムの遵守をする

会社の良し悪しを残業多い少ないだけで判断するのではなく、どうしたら改善できるのか?という建設的な思考の参考としていただければ幸いです。

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